中小企業向きの退職金制度

中小企業が使いやすい退職金ファンド

退職金積立には、内部留保の他、確定給付年金、確定拠出年金、キャッシュバランスプラン、中小企業退職金共済(中退共と略されます)、生命保険(ハーフタックスの養老保険)などがあり、選択肢は多岐にわたります。さらに、商工会議所会員なら特定退職金共済(特退共と略されます)、建設業なら建設業退職金共済(建退共)も使えます。

確定拠出年金と中退共を、確定給付年金と比較してみましょう。

【確定拠出年金(企業型)】

日本版401kです。加入者は2019年6月末時点で719万人に達しました。企業は掛金を拠出し、運用は従業員が行います。積み立て不足の問題は発生しません。投資教育をいかに行うかが成功の鍵ですが、そのノウハウもかなり蓄積されてきました。また、総合型であれば、少人数の企業にも導入できます。
60歳まで中途引き出しはできませんが、転職時に資産の移管ができます。したがって人事面においては特に採用の部分で、確定拠出年金の資産を持った大手企業からの転職者を受け入れやすいという効果も見逃せません。最近ではこの受け皿としての部分を目的とした中小企業での導入も増えているようです。
なお、企業主導で個人型を導入するケースもあります。

企業型には個人での上乗せ、個人型には企業での上乗せ掛金制度を採用することも出来ます。

【中小企業退職金共済】

独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する退職金制度です。加入できる企業規模に一定の制限があります。企業側のコストがかからないのがメリットですが、予定運用利回りは1%の固定です(法令改正により変わることがあります)。給付は退職時ですが、転職先が中退共に加入していれば退職金として受け取らず掛金納付実績を通算する制度もあります。

【確定給付年金(規約型)】

規約に基づき退職金積立を生命保険会社や信託銀行に委託します。予定利率の設定や積み立て不足の解消などの縛りがあります。

確定給付年金(DB) 確定拠出年金(DC) 中小企業退職金共(中退共)
給付額の保障 企業が保障 保障なし 予定運用利回り1%
運用リスク 企業が負う 従業員が負う 中退共が負う
退職給付債務 あり なし なし
口座管理 不要 個人別 個人別
コスト 事務費 事務費 教育費 なし
中途退職時の給付 あり なし あり
退職事由による減額 可能 不可能(規約により可能な場合もあり) 例外的に可能(懲戒解雇の場合など)

退職一時金制度を導入する場合は、その原資を積み立てる必要がありますが、生命保険を利用した仕組みとしてよく使われている通称ハーフタックスを紹介しておきます。

【養老保険(ハーフタックス)】

養老保険とは、死亡保険金と満期保険金が同額となる生命保険です。これを原則として従業員全員一律に加入させ、契約者=会社、死亡保険金=従業員の遺族、満期保険金=会社、という契約形態で契約します。満期は通常定年年齢に合わせますので、満期保険金を退職金の原資とすることができます。解約時の返戻金は会社受け取りであり、中途退職の際、解約金を必ずしも従業員の退職金に充てる必要はありません。税務上は保険料の半額が損金算入できます。

人事制度としての退職金規程はファンドとは別物

もう一方の課題、人事制度面に目を向けてみましょう。そもそも退職金制度は何のためにあるのでしょうか。インセンティブであると考えるのなら職位や成果と連動するような退職金制度とするべきですし、老後生活のための福利厚生ととらえるのであれば掛金は全員一律に近くなるでしょう。

いまだに多くの中小企業に採用されている退職金制度に勤続年数倍率方式があります。勤続年数によって定められた退職金支給率を基本給にかけて退職金の額を算出する方法です。通常は会社都合と自己都合で掛率を変えますが、年功的色彩の濃い制度です。基本給の決定方法がはっきりしていないと、曖昧な制度となります。もちろん年功については差をつけないという考え方ならOKです。

すでにお気づきだと思いますが、退職金の積み立て方法だけ変えても、問題の解決にはなりません。退職金原資の積立はあくまでファンドの問題であり、人事制度の問題は別物であるからです。勤続年数倍率方式の場合、そのままでいいのかの再確認が出発点です。
貢献に応じた退職金制度としてよく使われているのがポイント制です。
※【ポイント制】勤続ポイント、職能資格ポイント等を累積し、退職金単価を掛け合わせることによって算出します。貢献度に応じたポイントの付与が可能です。デメリットとしては、従業員のポイント管理が必要となります。

実際に退職金制度を見直すにあたっては、まず退職金規程が自社の考える退職金の位置づけに合致しているかどうかの検証を行い、ファンドの現状を把握し、その上で最適な規定とファンドを設計するという順序になります。ファンドは必ずしも一つである必要はありません。二つ三つ組み合わせて自社にぴったりの制度を構築することもよく行われています。

ファンド選びの主な論点は、中途退職時の給付が可能かどうか、退職事由による減額が可能かどうかです。
まず中途退職時の給付ですが、これは確定拠出年金ではされず、退職者は60歳以降の給付を待つことになります。一見デメリットのようにも見えますが、逆に、企業年金制度を公的年金の上乗せととらえるのであれば、確実に老後資金を積み立てるという意味でプラス面と考えることもできます。公的年金の縮小が進み、従業員が自主的に投資(リスク資産を含む運用)について考えねばならない時代になってきたことを思えば、60歳まで途中引き出しができない代わりに非課税で複利の効果を享受できる確定拠出年金の意義は大きいでしょう。特に長期運用の場合、利回りの違いが結果に大きく影響します。たとえば22歳から60歳までの38年間、毎月1万円を積み立てたとして、利回り1%では550万円程度しか積み立てられませんが、利回り4%で積み立てられれば1,000万円を超えます。従業員に運用リスクを負わせるということは、投資の成果を享受する可能性を与えることでもあります。

次に退職事由による減額が可能であるかどうかです。これは一部の社長さん方には譲れない部分かもしれません。これについては拠出と同時に資産が従業員に移転する、確定拠出年金、中退共では原則不可能です。
内部留保、確定給付年金、生命保険(ハーフタックス)などを利用します。

具体的な設計例を見てみましょう。

例1

確定拠出年金と中退共を組み合わせたプランです。退職給付債務は発生しません。公的年金の上乗せを積極的に作るという意味合いで確定拠出年金を、とはいっても転職時の一時金がほしい、運用リスクを取らない部分もほしいという意味合いで中退共を組み合わせています。
役割給、成果給をもとに退職金算定基礎給を定めれば、従業員個々の会社への貢献度にその年々で連動する退職金となります。

例2

確定拠出年金とハーフタックスプランを組み合わせた例です。ハーフタックスの解約金は会社受け取りですので、フレキシブルな使い方が可能です。この例では退職金カーブが中盤で勾配を増すS字型カーブを描く退職金制度に合わせています。

これからの退職金

人口減少社会に突入し、優秀な人材の確保はますます難しくなると予想されます。魅力ある施策で従業員の確保や士気向上を図るために、賃金制度の透明性はもちろん、退職金制度においても 従業員の目に見える形で構築していくことが重要になるでしょう。「退職金制度はあるらしいが期待できない」ではなく、「いま私の退職金はここまで積み立てられている」と従業員が認識できるような退職金制度を、この機会にぜひ考えてみてください。

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